目の病気と治療
EYE DISEASE
とうにょうびょうもうまくしょう
日本人の糖尿病患者さんのうち糖尿病網膜症にかかっている割合は、約15%とされ、約140万人の患者さんが糖尿病網膜症にかかっていると推定されています1)*。
糖尿病網膜症は、年間約3,000人の失明を引き起こし2)*、成人の失明原因の第2位で50~60代では失明原因の第1位となっています。
糖尿病網膜症には大きく3段階の症状
「単純糖尿病網膜症」
「増殖前糖尿病網膜症」
「増殖糖尿病網膜症」
に分けられます。
血糖や全身症状などにより差はありますが、小さな点状出血、それよりやや大きめの斑状出血、毛細血管が膨らんでできる毛細血管瘤、脂肪やたんぱく質が沈着してできたシミ(硬性白斑)、血管がつまってできたシミ(軟性白斑)などが眼底の所見として見られます。
視力には影響がない場合が多く、血糖コントロールをよくしていると自然に改善することもあります。
血管がつまってできるシミ(軟性白斑)が多数出てきたり、血管がつまって酸素欠乏になった部分があちこちに出てくると、新生血管が出てくる前段階になります。
静脈が異常に腫れ上がったり、毛細血管の形が不規則になります。正確な状況をつかむために蛍光眼底造影(血管造影)検査をすることがあります。この段階になると視力に影響が出ることがあり、危険な状態に一歩踏み込んでいます。この時期では症状の進行予防の為にレーザー光凝固をすると良い効果が得られます。
正常ではないはずの新しい血管(新生血管)が目の中で増えてくる、新生血管が破れて起こる硝子体出血(目の中での出血)、網膜に増殖膜が発生し網膜剥離を合併するという重症な段階です。
新生血管が出てもまだ自覚症状はありません。この段階でレーザー光凝固や新生血管を抑制する薬剤の注射をすればまだ間に合うことも多いのですが、硝子体出血や網膜剥離を起こすと、なかなか自然に治ることは少なくなります。この段階になると「目の中に煙のすす」がたくさん出たり、「赤いカーテン」がかかるなどの自覚症状が出てきます。
このような症状が出てきた場合、相当に進んでしまって手遅れに近いことが多いです。
糖尿病網膜症では網膜内の毛細血管から血液成分が漏れ出すのを促すVEGF(血管内皮増殖因子:けっかんないひぞうしょくいんし)という物質が増加することによって症状が悪化することが分かっています。VEGF阻害剤を眼内に注射することでVEGFの働きを抑え、糖尿病網膜症を改善させる治療法です。
1回の投与ではなく、3回程度の導入期投与を経て複数回の維持投与による有効性が報告されています。
網膜毛細血管にできたコブ(毛細血管瘤)や血液成分が 漏れ出ている部位にレーザー光を当てたり、血流が低下した網膜にレーザー光を当て焼き固める治療法です。
硝子体の網膜への牽引(けんいん)やたんぱく質(サイトカイン)を除去したり、硝子体内の酸素分圧を高めて糖尿病網膜症の症状進行を抑えます。また、硝子体出血や網膜剥離を合併した場合、低下した視力を少しでも回復させる為に行います。
硝子体手術は眼内の様々な組織を修復する複雑な手術です。
手術が成功しても視力がそれほど回復せずに、患者様にとって満足が得られない結果になることもあります。手術前の糖尿病網膜症の状態によって大きな差があるので、視力回復のためには適切な時期に手術治療を受けることが大切です。
血糖コントロールや、高血圧の治療など内科的治療を行います。
単純網膜症に進行している場合は、状態によってはレーザー光凝固療法を行います。
レーザー光凝固療法によって、病気の進行を遅らせたりすることができます。
増殖前網膜症と早期の増殖網膜症の場合、失明予防の目的でレーザー光凝固療法を行うことにより、病気の進行を阻止したり、遅らせたりします。
さらに病気が進行して、網膜剥離や硝子体出血が起きた場合は、硝子体手術が行われます。
網膜には、ものの見え方をつかさどる、黄斑(おうはん)という重要な部位があります。糖尿病黄斑浮腫はこの黄斑に起こる浮腫(むくみ)です。
黄斑に浮腫が発生すると、たとえ網膜症の初期の段階でも、視覚障害が起こることがあるので注意が必要です。
引用:網膜ドットコム「写真提供:名古屋市立大学 小椋 祐一郎先生」
自覚症状の進行に伴ってさまざまな症状があらわれます。
症状の中でもいちばん多くみられるのが、かすみ目(ものがかすんで見える)です。
そのほか、視力の低下、変視症(ものが歪んで見える)、コントラスト感度低下(色の濃淡や明暗のはっきりしないものが見えにくくなる)などがあります。
VEGFの働きを抑える薬剤を眼内に注射することで血管成分の漏れを抑制する治療法です。
【ステロイド薬】
ステロイド薬は、炎症を抑えたり血管から水分が漏れ出てきやすい状態を改善する薬剤です。この薬剤を眼内や眼の表面の結膜を切開して注射することにより、黄斑浮腫を抑えます。
引用:網膜ドットコム「画像監修:名古屋市立大学 視覚科学 教授 小椋祐一郎先生」
黄斑浮腫に対するレーザー光凝固術は、細小血管や毛細血管瘤(もうさいけっかんりゅう)から血液成分(水分やたんぱく、脂肪など)が漏れ出るのを防ぐ直接光凝固と格子状光凝固の2種類があり、単独または併用で行われます。
直接光凝固 毛細血管瘤や血液成分が漏れ出ている部位にレーザーを当てます。 |
格子状光凝固 網膜の浮腫を生じている部分にレーザーを当てます。 |
引用:網膜ドットコム「画像監修:名古屋市立大学 視覚科学 教授 小椋祐一郎先生」
黄斑浮腫の原因となるたんぱく質(サイトカイン)を除去したり、硝子体内の酸素分圧を高めて症状を改善させます。